ポアンカレ万華鏡の制作 (2) 双曲幾何とポアンカレ円板

(1)の最後に示した2つのタイリングは、数学の世界では「双曲幾何的タイリング」(hyperbolic tiling)と呼ばれます。「双曲幾何」は非ユークリッド幾何の一種で、中学校の数学で習う、いわゆるユークリッド幾何とは異なる性質を持つものです。

双曲幾何は、ユークリッド幾何で約束事とされていた以下の公理を否定することから始まりました。

「与えられた直線 l と、その上にない1点 pに対し、p を通り l に平行な直線がただ1本存在する」

linepoint

図を描いて考えてみると、この公理は至極当たり前のことのようです。

しかし、ロシアの数学者ロバチェフスキー (Lobachevskiy, 1793-1856) とハンガリーの数学者ボヤイ (Bolyai, 1802-1860)は、この公理に従わない場合でも、矛盾のない幾何学の世界を構築しうることを示しました。

双曲幾何の世界では、 「与えられた直線 l と、その上にない1点 pに対し、p を通り l に平行な直線が2本以上存在」します。

ただ、私たちのいるユークリッド幾何の世界から見る限り、双曲幾何の世界を正確に表すことはできません。完璧な双曲幾何の世界というのは頭の中の想像の世界と言えます。(実際は想像するのも難しいのですが・・・)

しかし想像するだけでは、双曲幾何を扱うのにあまりにも不便です。そのため、ユークリッド幾何的に見て完全に正確ではないものの、双曲幾何を視覚的に把握することができる、いくつかのモデルが考え出されました。

ポアンカレ円板はその双曲幾何モデルの一つで、フランスの数学者アンリ・ポアンカレ (Poincare, 1854-1912) が発明しました。

ポアンカレ円板は、双曲幾何の平面世界全体を円の中で表します。円周は無限遠を意味します。また、直線は円周に直交する円弧で表します。円弧はユークリッド幾何的には直線ではありませんが、双曲幾何的には(ポアンカレ円板の中の世界では)直線です。
poincarelp

(1)のエッシャーの作品「円の極限 I」をよく見ると、魚の背骨を結ぶ線は、いずれも円周に直交する円弧で構成されていることがわかるでしょう。

右上の図のようにポアンカレ円板の中では、直線 l と、その上にない1点 pに対し、p を通り l に平行な直線が何本でも引けます。直線 l と、p を通る各直線とは一見、平行なように見えませんが、交わってはいません。

また、円周に近くなるほど長さの単位が短くなり、円周上では単位が無限小になります。
poincarecircle

図の円板の中にある12個の円はどれも合同なのですが、円板の円周に近いものほど小さくなっています。

次は、万華鏡に適したタイリングのデザインについて話します。

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