ポアンカレ万華鏡の制作 (1) タイリングとエッシャー

コンピューター上で万華鏡の鏡像を生成する手法は、「タイリング」(tiling, 「タイル貼り」とも言います)と呼ばれる問題を含みます。同じ形の三角形をタイルのように平面上や空間中の物体表面上に敷きつめて、各タイルの中にオブジェクトの像を描画することになります。

どのようなタイリングをするかによって、できあがる万華鏡の形態は大きく変化します。下の図は最も典型的な例で、平面を正三角形と直角二等辺三角形でタイリングしたものです。わかりやすいように、隣り合う三角形どうしを白と黒で色分けしています。

equilateralisoscales

タイリングに魅力を感じた芸術家の一人に、オランダの版画家、M. C. エッシャー (Escher, 1898-1972) がいます。彼はスペイン・アルハンブラ宮殿の壁面の幾何学模様を見て以来、同じ図形を規則的に平面上に敷きつめることに強い関心を持ち、タイリングをテーマにした多くの作品を発表しました。

その過程で彼は、紙の上ではタイリングの世界の部分的な姿しか表現できないことに不満を感じていました。これはタイルの大きさが同じで、紙の大きさが有限である限り仕方がないことです。

やがて、エッシャーはタイルの大きさを無限小に至るまで段階的に縮小することを試みます。そして世界の中心から周縁に至る方向にタイルを小さくすることが、満足に近い形態を得られる最良の方法であると考えました。

この方法は言うは易しいのですが、実は非ユークリッド問題という複雑な数学的問題を伴っていました。エッシャー自身は数学について素人だったので、実験的にタイリングの試行錯誤を長い間繰り返しましたが、徒労に終わりました。

しかし、1954年の国際数学者会議で知り合った、イギリスの数学者 H. S. M. コクセター (Coxeter, 1907-2003) のアドバイスによって、エッシャーはついに満足できる解決法を見いだしたのです。その最初の作品が「円の極限 I」(Circle Limit I, 1958) です。

下の図は、コクセターの論文「結晶の対称性とその一般化について」に掲載された図面と、エッシャーの作品「円の極限 I」をコンピューターで再現したものです。類似性は明らかでしょう。

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Reproduced with permission from Drexel University, copyright 2003 by The Math Forum @ Drexel. All rights reserved.

次は、このコクセターとエッシャーのタイリングが持つ数学的側面について話します。

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